エネルギー製造用材料、省エネルギー材料、環境負荷低減材料、生体材料などの新規な高機能構造材料の研究開発が人類社会の持続的発展のために必要不可欠です。千葉研究室では、塑性加工・熱処理や電子ビーム積層造形をはじめとした最新鋭の加工プロセッシングによって材料内部に形成される原子スケールからマクロまで組織変化を系統的に調査・解析し、組織と特性との関係の体系化を目指しています。また、最新の分析解析技術や計算機シミュレーションを駆使して、これら先進材料の特性発現のメカニズムを材料科学的に解明するとともに、得られた結果に基づいて個々の材料に対して最も優れた特性を引き出す組織形成のための加工プロセスの確立と、新材料の創製に関する研究を行っています。
千葉研究室では生体用Co–Cr合金、Co基・Ni基耐熱合金、Ti合金を研究の三本柱として、金属組織学、材料強度学、塑性加工学、粉末冶金学を基礎としたものづくりに直結する研究に取り組んでいます。また、電子ビーム積層造形法、計算機シミュレーション、インテリジェント鍛造法などの研究を推進し、新規プロセスや新規材料の開発・提案を行っています。
具体的な研究テーマについてはこちらをご覧下さい。
[文科省地域イノベーション戦略支援プログラム (グローバル型)]
Co–Cr−Mo合金は金属系生体材料の中でも優れた耐摩耗性を有するため、人工股関節の摺動部に用いられています。特に、骨頭およびライナーにCo–Cr–Mo合金を用いたMetal-on-Metal (MoM) 型の人工股関節は、術後の関節可動域が大きく脱臼が起こりにくい大径骨頭を用いることができるため、患者のQOLの観点から大きな期待が寄せられています。しかしながら、MoM型人工股関節では摩耗粉生成に起因した生体反応が問題となっており、Co–Cr–Mo合金の耐摩耗性の改善は必要不可欠です。千葉研究室では独自に開発したCo–Cr–Mo合金 "COBARION"の耐摩耗性評価を、この分野における研究で著名なネブラスカ大学のHani Haider教授と共同で行いました。人工股関節シミュレータを用いた耐摩耗試験において、COBARION製のMoM型人工股関節は現存する人工股関節の中で最も優れた耐摩耗性を示すことが明らかになりました。
Haider教授の研究室で所有する12連人工股関節シミュレータ。ISO規格に準拠した500万サイクルの摩耗試験を行いました。
シミュレータを用いたMetal-on-Metal型人工股関節の耐摩耗性評価結果。
Department of Orthopaedic Surgery and Rehabilitation,
University of Nebraska Medical Center http://www.unmc.edu/orthosurgery/ |
[JSPS二国間交流事業]
人工関節の長期間の使用を可能にするためには、骨と金属インプラントとの固定 (接着) を強固にし、長期間使用しても弛みが生じない安定性を確保することが必要です。そのため、インプラント表面に多孔質層を被覆し、骨細胞を多孔質層の空隙部に誘導することで骨形成を促す技術が開発されてきています。しかし、このような研究のほとんどはチタン合金を対象としたものであり、Co–Cr–Mo合金と骨との結合性・親和性に関する研究はこれまでほとんど行われていませんでした。千葉研究室では、骨と金属インプラントの結合に関する研究において世界的に有名なヨーテボリ大学のPeter Thomsen教授のグループと共同で、Co–Cr–Mo合金の骨結合性に関する研究を行っています。動物実験の結果から、Co–Cr–Mo合金においてもチタン合金と同様にオッセオインテグレーション*が起こり、骨との強固な結合が得られることを初めて見出しました。また、微量な添加元素による骨結合性が有意に向上することを明らかにしました。
*Osseointegration: 骨と金属が直接結合すること
Co–Cr–Mo合金のサンプルとウサギを用いた動物実験。インプラントを抜去する際の抵抗を測定し、骨とのインプラントの密着性を評価します。
Department of Biomaterials,
Sahlgrenska Academy at University of Gothenburg http://www.biomatcell.org.gu.se/biomatcell/ |
[NEDO若手研究グラント、山田科学振興財団長期間派遣援助]
当研究室ではチタン合金のα’マルテンサイトに着目した新規な組織制御 “α’プロセッシング”を提案し、INSA-Lyonと共同研究を行っています。この手法を用いた結晶粒微細化と集合組織制御により、低弾性-高強度チタン合金の開発に成功しました。また、α’マルテンサイト組織を有するTi–6Al–4V合金の熱間加工を行うことで、結晶粒径1 μm以下の超微細粒組織が得られることを初めて見出すとともに、低温–高速超塑性 (加工温度923–1023 K、ひずみ速度10−2 s−1、伸び220%以上) が発現することを明らかにしました。超塑性加工はTi–6Al–4V合金を複雑形状へ加工する際に利用されてきましたが、生産性が低く、その適用が限られていました。したがって、α’プロセッシングを利用することで簡便な手法で安価にTi–6Al–4V合金の超塑性加工を行うことが出来るようになり、航空機用、自動車用、化学プラント用、さらには民生品等への広範な用途への応用が期待されています。なお、2013年4月より松本助教 (現: 香川大学准教授) がアルビ鉱山大学に滞在し、Gérard Bernhart教授とともに超塑性変形に関する共同研究を行いました。
"α'プロセッシング"により得られたTi–6Al–4V合金の超微細粒組織 (平均結晶粒径200 nm)。準安定α単相からなる超微細粒Ti–6Al–4V合金は従来よりも優れた超塑性特性を示すことがわかりました。 |
INSA-Lyon http://www.insa-lyon.fr/en |
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Ecole des Mines d'Albi-Carmaux http://www.enstimac.fr/ |
電子ビーム積層造形(EBM)は電子ビームにより金属粉末を選択的に溶融・凝固させた層を積層させることで3次元構造物を作製します。